とり天定食一人前

日付の変わる少し前、こんな時間なのにおなかが空いたので安いチェーンのファミレスに入った。ぼんやりメニューを眺めていたら、ふと中学生のころの思い出がよみがえってとり天定食を注文した。

私の住む町はとても小さなところで、中高生が遊べる場所は限られていた。デートスポットなんてカラオケとゲーセンとファミレスくらいしか思い付かなかった。
中学校を卒業する少し前ごろに、生まれてはじめてデートをした。何をすればいいのか全くわからなかった私達は、とりあえずご飯を食べることにした。手頃で長時間滞在できるファミレスは中高生のたまり場で、私達が入ったときにも見知った顔をいくつか見付けて気恥ずかしかった。
「さっぱりしてて美味しいんだ」確かそんなことを言って彼はとり天定食を頼んだ。おなかすいているからがっつり食べたいのかなと思っていたら、途中で食べきれないと残してしまった。さっぱりしてるんじゃないのかい!?と思わず心の中でつっこんだ。男の子はご飯をたくさん食べる生き物だとばかり思っていた私はびっくりした。…デートで彼女より少食なのはやめてほしかったな…

運ばれてきたとり天定食は記憶よりもボリュームがあって、これは残しても仕方ないかなとちょっと笑った。添えられたカラシを彼は使っていただろうかと考えたけどもう思い出せなかった。その日私が頼んだメニューも、ファミレスを出て延々と川沿いを歩きながら話した内容も、遠い記憶の彼方だ。
はじめて食べたはずのとり天定食は、なぜか懐かしい味がした。